サンダータイガー F−54S モニター − サンダータイガー社の4ストロークエンジン − R/Cモデルにおける4ストロークエンジンカテゴリーは日本製メーカーの独占市場であ ることはご存知の方も多いと思いますが、本誌で取り上げることの多い海外のメーカーで あるサンダータイガー社でも実に優秀な4ストロークエンジンを2機種ラインナップして おります。 ユーザー間ではすでに評価が高いエンジンなのに、どうしてか取り上げられる機会が余り 多くないのも不思議でした。今回そのうちの『F−54S』をテストするチャンスに恵ま れましたのでその様子をレポートしたいと思います。 まず外観ですが均等に揃った美しいシリンダフィンが目に飛び込んできます。プッシュロ ッドはエンジン前方に配置する形式でこのあたりはOSやYSと同じシステムです。 サンダータイガー・ジャパン社のホームページでは「スキュウギヤによるカムシャフト駆 動」と説明されてますが、古い言い方ですと「ウォームギヤ」といった方がわかり易いの ではないかと思います。4ストロークエンジンですとクランクシャフト2回転で1行程の サイクルですからクランク2回転でカムシャフトは1回転に減速しているわけです。 バルブの開閉タイミングを決めるカムシャフトの回転は絶対にズレてはいけない大事な部 分ですのでシンプルで駆動トルクに優れる「スキュウギヤ」は最適な選択といえると思い ます。キャブレターはスロー絞りの無いタイプでスロー時のエア調整ブリードネジが設け られています。スロー絞りのタイプよりは扱いが簡単で、初心者の方でも調整による失敗 が少ない設計といえると思います。 また、スロットル本体は取り付けビス2本を外すことによって簡単に左右反転をさせるこ とができ、機体搭載時の自由度が高められております。 ヘッドカバーを外すと骨太なロッカーアームが見えます。最適なバルブクリアランスを保 つためには時々調整をしなくてはならない部分ですが、調整シムも同梱されていますので 初めての方でも時々は説明書に従い調整されることをお勧めします。 最近発売されるエンジンはこのカバーをキレイなカラーでアルマイト加工してあるものが 多くなってきました。F−54Sもヘッドカバーはクロームメッキを施してありますが、 他社のエンジンと比べるといささかレトロな感は否めません。カウルから唯一見える部分 ですし単体部品でもありますのでマイナーチェンジを望みたいところです。 マフラー本体はブラックにカラーリングされ、切削加工の2本のラインが精悍なイメージ を引き立たせております。ヘッドカバーも同様なカラーリングが望ましいと思います。 テスト機は以前に本誌でモニターしたエンジェルスジャパンのF4Uコルセアに決めまし た。この機体にはOS FS−52Sを倒立で搭載しており、スケール機であるにもかか わらずそのフライトは実に安定していて、見た目よりもはるかに飛ばしやすい機体です。 但し、テール部分の作り込みがオーバークオリティ気味でテールヘビーは避けられず、重 心を合わせるためにノーズにはダミーウェイトを積む必要がありました。スケール機の場 合はこのようなケースが多々見受けられます。 さて早速、F4−Uのカウルを外してエンジンの換装を開始することにしました。 F−54Sのエンジンマウント寸法はクランクケース幅方向でOS FS−52Sとほぼ 同一ですが、クランクシャフト軸方向では2.0mmほど長くなっています。 たった2mmというのが厄介で3mmビス1本分に満たない違いなのでマウント側を長穴 加工するしかありません。ケース幅も若干きつかったのでサンダーでアルミダイキャスト のマウントを削ることにより無事搭載が完了しました。 樹脂のマウントであれば殆ど加工せずに搭載できるのではないかと思います。 他の部分はスンナリと作業が終了したので、元旦には早速飛行場へ持ち込みフライトテス トをすることにしました。サンダータイガーの4サイクルエンジンの実力やいかに、と楽 しみです。 ここでR/C飛行機用4サイクルエンジンの特徴に少し触れておきます。アルコールとニ トロメタンを主成分とするグロー燃料はヒマシ油や化学合成系の鉱物オイルを加え2サイ クルエンジンに適する配合のものが中心でした。実機や自動車にはオイル溜り(オイルパ ン)やドライサンプ式のように別体のオイルタンクが不可欠でR/Cのように混合燃料は 絶対に使うことができません。万が一、混合燃料を入れてしまった場合、含まれたオイル も一緒に燃えてしまうため、バルブ周りにカーボンが付着してバルブシートの密着性を著 しく損ねてしまうからです。 この理由はガソリンエンジンの方がグローに比べて燃焼効率が非常に高いことにあります。 軽量でシンプルな構造が不可欠なR/Cエンジンにはガソリン使用を前提にすると重量増 やその複雑な構造のため、非常に困難であると考えられていました。 しかし、もとより混合燃料使用を前提としたR/Cエンジンではガソリンより着火点の低 いアルコールを使用していましたので濃い目のセッティングが前提でした。 いわば不完全燃焼をさせていたのですからオイルもほとんど燃え尽きずに排出させている 訳でバルブシートにはカーボンやスラッジはほとんど付着することはなかったのです。 エンジン作りのプロからすれば、4サイクルエンジンに混合燃料を使用することなどはも ってのほかとタブー視されていたのですから最初に世に出たときは目からウロコでした。 人間には先入観というものがあり、こんなことに気付くまで相当な時間を要しているので す。ですからR/Cにおける4ストロークエンジンの歴史は2サイクルからするとまだま だ浅く、今日のように一般化されるようになったのはほんの10数年のことなのです(誰 にでも簡単に扱える位いに実用化されたの意)。 もちろん加工技術が昔は低かったことも同じくらいの要素を占めるということは有るにせ よ、現代のエンジン加工精度の向上には目を見張るものがあります。 世界的なメーカーとして知られるサンダータイガー社はこの加工技術や品質において特に 抜きん出たものを持っています。実際にミクロン単位の計測をしたわけではありませんが 、どのエンジンにも共通して言えることはその回転の滑らかさにあります。 −フライトさせてみるー クラブ恒例の元旦初飛行会に持ち込んでフライトさせる手筈でしたが、お神酒が入った状 態でまともなインプレッションが出来るのか?との心配があり、その数日後を選んで飛行 させることになりました。 それにしても、世のご同輩も新年早々各地で同じように過ごされていることと拝察します が、数十年もこれが続けば私なんかは家族から「元旦は家に居ないものだ」との暗黙の了 解が出来ていて実に快適です。ですから新年の挨拶や親戚回りは元旦以降に自動的に計画 されています。皆さんはどうなんでしょうか? さて、早速F4−Uに燃料を入れて飛行準備に入ります。燃料はコスモのブラックスペシ ャル・15%ニトロです。プロペラはAPC11×7をセットし、スターターでエンジン を始動します。ほんの数秒でエンジンは始動しニードル調整に入りますが、スロットルを 開けるとエンストしてしまいました。他社のようにニードル全閉より2回転前後ではどう も薄過ぎるようで再調整の結果、全閉より3回半のところでいいセッテイングが出ました。 タコメーターで計測するとAPC11×7を10800rpmで回しており、地上で抜群 の引きを見せています。 いよいよ飛行ですが、霜解け後の軟弱な滑走路面をものともせずにアッという間にF4− Uは離陸して行きました。 エンジェルスジャパンのARTFキットであるF4−Uコルセアは2サイクル46クラス としていますが、ウィングスパン1540mm、全備重量3kgの機体はこのクラスでは 大柄な機体なので指定のエンジンでは少し非力に感じ、4サイクルを積む場合は70クラ スが合っているのではないか?と考えていました。でもこのF−54Sエンジンは期待を 裏切って(?)F4−Uを軽々と上空へ運んでいってしまったのです。 比較的に厚翼の部類に入る主翼を持つF4−Uはスピードが出る設計では無かったハズな のに、場周飛行から戻って滑走路上空を相当なスピードで通過していきました。 スケール機なのであんまりやりたくなかった各種演技も、ムクムクとやる気を誘うのです。 飛んでいるだけでも存在感のあるキレイなスケール機が正直ここまでやれるとは思っても 見ませんでした。調子に乗って飛行を続けるうち、そろそろ燃料切れの心配が頭をよぎり ましたので着陸態勢に入れます。 最終ターンからスロットルを下げると厚翼の主翼のせいかすぐにスピードを落としてきま す。エンストの心配などはまったく感じさせないほど安定したスロー回転を保ってF4− Uは滑走路に3点着陸をしました。 各社50クラスはその扱いやすさとパワーには定評がありますが、サンダータイガーの4 ストロークエンジン、F−54Sはその中でもパワーに関して抜きん出た実力を持ってい ることが分かりました。 国産ばかりの食わず嫌いの方にも1度試されることをお勧めします。(私もそうだった) −4サイクルエンジンと長く付き合う方法− 2サイクルエンジンはその構造がシンプルなため、比較的にメンテナンスをされている方 が多いと思いますが、4サイクルエンジンのメンテナンスをしている方は余りいません。 面倒臭がらずキチンと手をかけることにより自ずと調子を保つことが可能となります。 毎週同じ飛行機を飛ばしている方ばかりもそうは居ないと思いますが、飛ばさない期間が 長くなるようであれば一応の処置を施しておいたほうが賢明です。 私の実行している幾つかの方法を挙げますと、 @飛行後には生ガスを残さないこと Aプラグ孔からメンテナンスオイルを注入 Bヘッドカバーを外してメンテナンスオイルを注入 Cリヤカバーを外してメンテナンスオイルを注入 このうち@とAは比較的に簡単です。@の理由は生ガスに含まれるアルコールは親水性が 高いので空気中の水分と結合し易いため、サビを発生させ易いからです。Aは2サイクル のようにクランクに通ずるポートはありませんが、リング溝を通して徐々にオイルをクラ ンク室に行きわたらせることができるからです。 Bは毎回のようにできるわけではありませんが、プッシュロッドカバーのパイプから直接 クランク室にオイルを送ることができるからです。Cはもっと大変ですが一番効果があり ます。しばらく飛ばす予定が無い場合はBとCがいいでしょう。 ちなみにメンテナンスオイルは私の場合、アイエム産業から発売しているオイルを愛用し ています。 それと4サイクルには共通することですがニードルの絞り過ぎにはくれぐれも注意するこ とです。絞りすぎると2サイクルに比べて4サイクルは燃焼効率が高いため、強酸性のブ ローバイガスがピストンとシリンダーのわずかな隙間からクランク室に入って滞留し、極 端な場合には飛行中にでも腐食が始まります。こんなときは翌週にはベアリングからゴロ ツキが発生してガッカリすることになってしまいます。 パワーが欲しくて絞りすぎることはノッキングも起こし易くなって何ひとついいことはあ りません。ニードルを決めるときのコツはピークを確認した後、マフラーからの排気煙に よく注意しながら少し多めの排気煙になるまでニードルを戻すことなのです。要はスロッ トルレスポンスが悪くならないところまで出来るだけ甘くすることで、エンジンによって は半回転も戻すことさえあります。また飛行中でも排気煙が少ないと思えたときには着陸 させて甘めにさせるべきなのです。 このようなことに心掛けていればあなたのエンジンはいつまでも好調な状態を保ってくれ るハズです。 F−54Sは個体差もあると思いますが、3回半も二ードルを開けたところに良いセッテ ィングポジションがあるので特に注意が必要です。 どんな場合にでも言えることは、好調・不調の原因はメーカーに起因することが少なく、 ユーザーの使用方法いかんで大きく違いが出てしまうことの方が多いのが現実です。 優しくエンジンに接することで皆さんのエンジンの寿命も驚くほど伸びることでしょう。 このモニターを書き終えてサンダータイガー社のエンジンをまた一つ、私の愛用エンジン として加えることになりました。 廣瀬 清一 |