サンダータイガー PRO 46 インプレッション


サンダータイガー社は台湾に本社を置くエンジンメーカーでR/C業界では
世界で唯一、審査が厳しい標準品質規格であるISOー9001を取得して
いる会社である。
またエンジンだけではなく飛行機やヘリ、RCカーなども製造販売をしてい
る総合メーカーとしてよく知られ、主に世界中で一番マーケットが大きいア
メリカではユーザーに幅広く浸透しているブランドである。
売れているということは品質が良いということの証左で、事実どの製品を購
入してもその満足度は高いものがあるとアメリカのR/C雑誌では評価され
ている。日本国内でもサンダータイガー社の製品を取り扱う販売店が増えて
きているが、本当の実力からすればもっともっと売れても不思議ではないと
思われているメーカーだ。
同社のエンジンのラインナップは飛行機用ではクランクシャフト軸受にブロ
ンズメタルを使用しているGPシリーズと軸受の前後に2ボールベアリング
を使用しているPROシリーズがあり、前者は安価でコストパフォーマンス
に優れたビギナー・一般向けとされ、後者はハイパワーなエキスパート向け
とされている。この他に飛行機用として優秀な4サイクルモデルも数種類が
用意されている。ヘリ用には36・39・50・70・90とすべての排気
量が用意され、すでに評価の高いエンジンとして知られている。
この中でも特に私のお気に入りは最小排気量である「GP−07」でこのク
ラスでは始動性の良さ、アイドリングの安定性、そのパワーは右に出るもの
が無い。小排気量のエンジンでこれが出来るのはミクロン単位の加工技術が
高いことと、それを量産できる設備が整っていることが絶対条件になる。
また、設計はコンピュータによる最新のCAD/CAM技術を応用して行わ
れているとの事だが、それは人間が入力すること、基礎になる概念がしっか
りしていなければいくら優秀な設備が揃っていても高性能エンジンは出来な
い。
それではなぜ同社が優秀なエンジンを次々と輩出させているかということだ
が、その理由は日本における同社のディストリビューターであるサンダータ
イガー・ジャパン社の社長が、かの旧OS社長の三原   氏であることで
説明が付く。なにしろこれまでのOSエンジンの設計は殆んどが三原氏によ
るもので、同氏の輝かしい業績はあまた世界中に知られるところなのである
。憶測の域だがこの三原氏がニューモデルの開発に関与しているであろうこ
とは容易に想像がつく。
サンダータイガー社の飛行機用エンジンは2サイクルが主力であるが、昨今
の4サイクルブームでどちらかというと2サイクルは押され気味であること
は否めない。しかし、先述したアメリカでは軽量・ハイパワーなスポーツエ
ンジンとして確立されており、シンプルで扱い易いところが評価されている
とのことだ。日本国内でも4サイクルより比較的に騒音が高くなる傾向の2
サイクルは使用率が低くなっていたが、扱い易さとその圧倒的なパワーは充
分な騒音対策を施すことによって見直されて来ている。

今回、PRO−46のインプレッションをする機会に恵まれたが、搭載した
機体はエンジェルス ジャパンより発売されている「パイパーカブ 40」
である。翼長が2メートル近くあり軽翼面荷重のこの機体では完全にオーバ
ーパワーであることは分かっていたが、数種のプロペラを試すにはエンジン
位置が高く好都合なのでこの機体に決定した。エンジンは倒立搭載とし、マ
フラー以外はカウルから殆んどはみ出していない。
倒立に搭載すると殆んどの機体でキャブレター位置はタンクの中心線より低
くなってしまうため、アイドリングは不安定になることが多い。通常その場
合にはシビアなスローニードル調整とメインニードルの調整をしなければな
らなくなるがPRO−46の場合はどうであろうか?また、キャブレターの
メインニードルは飛行機用全機種とも斜め後ろに角度を付けてセットされて
おり、プロペラに指が巻き込まれるのを防止するように配慮されているが、
とても調整し易そうである。
プロペラはメーカー指定の11×6をセットし、燃料は東邦化研のFH−
15を使用してインプレッションをスタートする。
地上で1タンクほど慣らし運転をしたが、エンジンを始動して最初に感じた
ことが『音の静かさ』と『音のマイルドさ』なのである。
これまでいろいろ2サイクルのエンジン音を聞いてきたが、その音質の違い
がハッキリと分かる。しかし、ただ単に音量を下げようとするとその引き換
えにパワーを失っていたのだが、このエンジンの場合はどうなのか?
そこで2タンク目からは甘めのセットで上空飛行に移ってみたが、これはに
ビックリ!想像とは裏腹にやさしいスタイルのパイパーカブがぶっ飛んでい
くのである。しかも抵抗の大きいスケール機で全備重量が約3kgの機体を
垂直上昇させてもスピードを落とすことなくどこまでも引き上げていくのだ
。その圧倒的なパワーに一緒にいたクラブ員も全員が唖然としていた。ちな
みに何人かにスティックを渡して飛ばしてもらったが、ほとんどの人のエン
ンスティックは自然と5割程度の位置で飛ばしていたことからもこのPRO
−46の高性能は窺い知ることが出来る。横からけし掛けて「フルスロット
ル!」と言っても「ちょっと恐ろしい」という人も居たくらいだ。
そしてこのパワーを出していながらビックリなのは音が静かなのである。カ
ン高くなりそうな雰囲気だったのにこのマフラーは上手に消音しながら見事
に良質な音に変えている。
伝えるのが難しいが「ビィ〜〜」「ウォ〜〜」でなく、小さな「フォ〜〜」
と形容すれば何となく正しいのではないかと思う。

ところでエンジン工学では4サイクルのマフラーはエンジンの付属品として
解釈されいるが、2サイクルではエンジンの一部の重要な部品と位置付けら
れている。2サイクルは1回転のうちに吸気・圧縮・爆発・排気の4つの行
程を行っているのだが、爆発直後の排気行程では掃気ポートから送られる未
燃焼ガスが爆発したばかりの排気ガスをマフラーへ追い出す役目を持ってい
る。この時にせっかくの新気ガスも排気される燃焼ガスと一緒にマフラー内
に出てしまうのを防ぐためマフラー内部の容量や形状、出口の口径・長さを
設計しているのである。
この未燃焼ガスをマフラー内圧で戻すことを専門用語でカデナシ効果といっ
ているが、2サイクルのマフラーは単なる消音器ではないことが解って頂け
ると思う。また、ちなみに2サイクルエンジンのマフラーを外してエンジン
を掛けると、喧しいばかりでなく信じられないほどパワーが出なくなってし
まうのだ。要するに2サイクルのマフラーは4サイクルの排気バルブと同じ
役目をしていることがお分かりかと思う。
このことからも充分な消音とハイパワーの両立はなかなか達成しなかったの
である。
そのようなことを踏まえて、このマフラーは本当に優秀であると言える。

上空飛行を終えて着陸させるが、ずっとスローにしていてもいつまでも回転
は安定していて最初に心配した倒立での難しさは全く感じなかった。
言い忘れたがピーク出しのニードルも非常に判り易かった。
今回のテストでは時間の関係でプロペラはこの11×6しかテスト出来なか
ったが、11×7、12×6なども回し切るであろうと思う。
あと、些細なことだが付属しているマフラーガスケットはたびたび外すこと
になっても焼きついて駄目になってしまうことがない素材で出来ている。
いま気付いたがその前に未だかつてマフラーガスケットが付いていたメーカ
ーが私の記憶にない(笑)。

いいこと尽くめで書いてしまったようだが、このところ4サイクル中心で楽
しんでいた私にもこのPRO−46は正直、2サイクルを見直すキッカケと
ショックを味わわせてくれた。滑らかでパイパワーな特性と元来の模型飛行
機の持つ音質は初心を思い起こさせてくれるハズ。R/Cライフにマンネリ
を感じたら、是非、お奨めしたい1台である。
                           廣瀬 清一