(2)飛行機の失速を考える
記録的な暑い夏が過ぎて、やっと本格的に飛行機を楽しめる一番いい季節になってきました。
どんな楽しい趣味でも立っているだけで汗ビッショリの中で飛ばすのは、なんだか自分がバカに
見えてきてイヤなものですね。
ところで飛行機が失速して墜落をさせたことは皆さんも少なからず経験がお有りだと思います。
飛行機を飛ばしている方にとって、失速と言う2文字はあまり響きの良い言葉ではありませんが、
実はベテランほどこの失速と上手にお付き合いしながら飛ばしているということは余り取り上げ
られておりません。
「失速を楽しむ」というと初心者の方はビックリするかもしれませんが、一例を挙げると優雅で
キレイな着陸は実は完璧にコントロールされた失速のことでもあるのです。
「失速=コントロールを失う」と言う考え方が一般的ですが、その定義は主翼から空気が剥がれ
て揚力を失うことを意味しています。
失速に入る条件は様々な要素がありますが、大きくは翼型、翼厚、翼面積、翼面荷重、重心位置
などが挙げられます。これと空気抵抗の相関関係で失速が起こるのです。
アエロバティックに代表される演技は予定された失速であり、失速をコントロールし易い翼型や
舵面積や舵角などを最適化させた機体です。
ここでお話したいことは予定された失速と不意な失速はどちらも失速なのです。予定されていた
か不意なのかで経験的な差が出てきてしまうのです。
そうは言ってもどんなベテランでもときどき不意な失速に見舞われることがあり、そのため最悪
は墜落させた時などに「あ〜あ、何年やっても俺はまだまだ修行が足りないなァ。」と考えさせ
られ、それだけ奥が深い趣味であることを痛感するときがあります。
でも、同じような状況で初心者の方は機械的な或いは電波的な「ノーコン」になったと考えてし
まう方が殆どで、大体はRCメカの信頼性のせいと思ってしまいます。(私もそうだった)
メーカーからお金をもらって言っているのではありませんが、現在の日本製のRCシステムは世
界最高といえる信頼性があり、同じバンドの混信でもない限りノーコンは滅多に起きません。
失速はどんな機体でも起こりますが簡単な実験を行なうには、水平飛行からエレベータを徐々に
アップを引いて行きますと機速が早ければ機体は上昇します。同じ場面で機速を徐々に遅くして
行くと、抵抗が増えているので機体は上を向いても上昇しなくなって更に機速は落ちて行きます。
このあたりから翼端がフラフラしだして、テールも左右に振れ出すことが多く非常に危険な状態
となり、ついにはロール方向へコロリと廻ってしまいます。
何故このようになるのかは進行方向に対して主翼の迎角が付きすぎて主翼を包んでいた空気の層
が上面だけ剥がれたからなのです。
空気が両手で挟んで持っていた物を片手だけで支持し、ついには支えきれなくなったのです。
上半角の大きい高翼機やクラークYのように主翼下面の平らな翼型はこの失速に入るポイントが
比較的遅く、唐突に起こらないのが理由で初心者に向いています。また、失速の形がロール方向
ではなく多くはピッチングとなって現れます。ですからピッチングを始めたらエンコンを吹かし
たりエレベータを放して機首を下げて機速を上げるだけで簡単に回復するのが特徴です。
しかし、テーパー比の強い翼型や翼面積の少ない機体などはこの失速が唐突で、失速から回復す
るのも前者より時間が掛かります。代表的な機体はキャップ231系で低速失速どころかハイス
ピードでの高速失速も簡単に起こします。これは主翼だけの問題ではなく水平尾翼の位置も関係
しているのですが、「このコロコロ感がたまらない!」という人もいるのですから面白いのです。
では次に「揚力」のことを考えてみます。
通常、主翼前縁で振り分けた空気は整流されながら上下の面をなぞって行きます。このときの振
り分けられた空気が上下面を層流となって流れ、翼厚により大気中に圧力を掛けた状態ができま
す。この圧力を掛けた方向へ引っ張る作用に変換された「力」を「揚力」と言っています。
本来はすべて有害な抵抗なのですが、これを無害で有益な力に変換させた先人は大したものです。
この揚力の大小は翼厚が厚いほど大きく薄いほど小さくなります。そして上下に引っ張られる訳
ですから「浮く」のではなく「空気中に支持」されているという表現が本当は正しいのです。
薄い翼厚に代表される機体にはグライダーがありますが、通常のエンジン機とは考え方が相当に
違います。
グライダーは滑空比を上げるため有害抵抗を減らす目的で翼厚を薄くしてありますが揚力は反比
例して少なくなってしまいます。これを補うのが翼長で面積によってトータルでの揚力を大きく
してあるのです。ですから機速コントロールはデリケートで機首を下げると信じられない位いス
ピードが出てしまいます。しかし失速に入ると機体によっては回復不能なほどキリモミになって
墜落もするのです。易しそうに見えますがこの理由で私は初心者にはまず薦めません。
同じ薄い主翼でもパイロン機はただひたすらにスピードを求めるため主翼は板のように薄く作ら
れています。ですから失速に入るとアッという間にコロンときます。
このように主翼と機体の関係はその使われ方によって様々な形と厚さになってくるのです。
主翼が翼厚によって空気を圧縮する論理は「レイノルズ数」と言う係数で表現されます。あんな
大きいジャンボジェット機がなぜ飛ぶかを知らない方は不思議に思いますが、ラジコン飛行機も
ジャンボも同じ空気を利用して飛んでいるのです。簡単に言ってしまうと飛行機が大きければ大
きいほどこのレイノルズ数が大きくなって有利になります。だからジャンボは飛ぶのです。
この理由からも初心者の高翼練習機には20クラスよりも40クラスのほうが主翼面積が大きく
挙動も安定しているので薦められている所以でもあります。
スケール機などでよく耳にすることは、「同じ縮尺で作りたかったが、飛行性能安定のために止
むなく主翼の長さを大きくせざるを得なかった。」ということを聞きますが、スケール比通りに
作成した場合はレイノルズ数が低くなってしまうため、安定性はおろか、飛ばすことが出来なく
なってしまうことがあるのです。
失速特性を見極めるためのヒントを挙げますと、ベテランの方ほど必ず実行する事は製作したて
の初めて飛ばす飛行機の場合に着陸特性を見るため、失速させても回復させることが出来る高度
で徐々に機速を落としながらエレベーターで吊ってきてどこまでスピードを落とすことが出来る
かを試しています。
このとき同時に失速に入る寸前の挙動がどのように出るかも確認している訳です。
また、重心位置も重要です。どんな機体を購入しても必ず重心位置が記載されていますが、この
位置が指定よりも後ろになると失速ポイントが早く、唐突な出方をするようになります。
過去に私がグライダーで経験しましたが、指定よりも3センチ後ろだったことを確認忘れで飛行
させた時はまるでノーコン状態で墜落しました。幸いどこにも破損がなかったので再飛行させま
したが同じ状況が続きました。メカを確認したり舵角を変えたり何とか飛行を続けられるまでに
なりましたが、ターンをさせるとすぐに不安定になり、とても楽しむところではありません。
やっと気が付いたのは着陸させるときでした。エレベーターアップで少しでも吊ろうとするとダ
ッチロールを起こすのです。「あれっ!そういえば重心見たっけ?」
そうです、すっかり忘れていました。もう慢心以外の何ものでもありません。
その後、重心位置を直して最高の飛びを見せてくれたのは云うまでもありませんが、それ以来私
は重心位置確認を忘れたことはありません。
スタント機でのスナップロールや各種飛行特性を調整するのに重心位置は重要な要素です。
ベテランはほんの1〜2センチのところをくどいように調整しています。まして3センチにもな
ればスタント機はともかく、グライダーやパイロン機は致命的なものになります。
それほど重心位置は飛行特性に大きく関わってきます。
また、総重量も見逃すことはできません。
どんな先鋭化された機体でも翼面荷重が重すぎると失速のポイントが早くかつ唐突に出ることが
多く、軽量であればあるほど失速も遅く挙動も穏やかになるので、ベテランほど飛行機を製作す
る段階で1グラムでも軽くしようとするのです。
完成機体などでも接着剤は必要最小限にしたり、搭載メカを軽量なものにするなどの努力で相対
的な飛行性能は予想している以上にアップさせる事が可能です。
飛行機を飛ばす同じ仲間として失速のことをよく理解しないまま墜落の憂き目に会うことは残念
なことですので、よく理解された上で早く失速を楽しめるようになって頂きたいと思います。
廣瀬 清一
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